技術解説

シナリオ型 vs LLM自律思考型 — 電話AIの2つのアーキテクチャはどう違うのか

AIRI編集部

·11分で読めます

電話対応AIのサービスを比較していると、資料に「シナリオ設計不要」「LLM搭載」といった 言葉が並びます。これらは単なる機能差ではなく、会話の進め方を誰が決めているかというアーキテクチャの違いです。従来のシナリオ型は人間が設計した 会話フローに沿って動き、近年登場したLLM自律思考型は、AI自身が 会話の進行を判断します。この違いは、構築コスト・想定外への強さ・挙動の予測可能性という トレードオフに直結します。この記事では両方式の仕組みから選び分けの基準までを整理します。

シナリオ型の仕組み — 会話を状態遷移で設計する

シナリオ型のボイスボットは、技術的には状態遷移機械として動きます。 「用件の聞き取り」「本人確認」「回答の読み上げ」といった状態(ノード)をあらかじめ定義し、 利用者の発話を意図分類(インテント分類)にかけて、該当する分岐へ遷移する—— この繰り返しで会話が進みます。発話理解が不安定な場面では、数字のプッシュ入力(DTMF)を 併用してフローを確実に進める設計も一般的です。

この方式の長所は、動きが設計図どおりであることに尽きます。

  • 挙動が予測可能 — 同じ入力には同じ応答。想定外のことを「言い出さない」。
  • 監査しやすい — どの発話でどの分岐に入ったかをそのまま追跡でき、 応対内容の統制が求められる金融・行政系の業務と相性が良い。
  • 実績のある方式 — コールセンター向けに長年使われ、運用ノウハウが蓄積されている。

短所は「ボイスボットはなぜ使えないと言われるのか」で詳しく書いたとおり、分岐の組合せ爆発です。実際の発話の多様性を 分岐で網羅することは原理的にできず、シナリオの構築と保守には専門ベンダーの工数が かかり続けます。「よくある言い回し」から外れた瞬間に聞き返しループに入るのは、 この方式の構造的な限界です。

LLM自律思考型の仕組み — 会話の進行をAIが判断する

LLM自律思考型では、会話フローを人間が書きません。代わりに、目的(例: 問い合わせ内容を聞き取り、回答または取り次ぎを行う)、制約(例: 価格の値引き交渉には応じない、個人情報は復唱して確認する)、ナレッジ(FAQ・商品情報などの参照データ。RAGと呼ばれる検索の仕組みで 通話中に引き当てます)をLLMに与え、次に何を話すべきかの判断そのものをAIに 委ねます。分岐を書く代わりに、方針とデータを与えるアプローチです。

  • 言い回しの揺れに強い — 意図分類の枠に発話を押し込むのではなく 文意を理解するため、複数用件・言い直し・前置きの長い話し方に追従できる。
  • 文脈を保持する — 会話の前半で聞いた内容を踏まえて後半の応答を変えられる。
  • 構築が軽い — フロー設計の代わりにナレッジ整備が中心になるため、 シナリオ開発の初期工数・修正工数が大きく下がる。

一方で短所も方式に固有です。挙動の完全な予測はできないため、 話してよいこと・いけないことを制約として設計するガードレールの作り込みが必要になり、 参照データにない内容をもっともらしく答えてしまうハルシネーション(幻覚)の リスクにはナレッジ整備と回答範囲の限定で備えることになります。

大手も舵を切る「自律思考型」

この方式は小規模サービスだけのものではありません。国内ではソフトバンクが、 スクリプトに追従する従来型ではなく、LLMが対話の中で自ら必要な情報を集めて応対を進める 「LLM自律思考型」のAIエージェントを開発し、コールセンター業務の約5割の自動化を 目指していると報じられています。会話フローを書き切る発想から、方針とデータを与えて 判断を委ねる発想への転換は、業界全体の流れになりつつあると言えそうです。

比較表 — 5つの観点で見る両方式

 シナリオ型LLM自律思考型
構築コストフロー設計・意図定義に専門工数が必要ナレッジ整備が中心で立ち上げが軽い
メンテナンス変更のたびに分岐を改修ナレッジ・指示文の更新が中心
想定外の発話弱い(聞き返しループに入りやすい)強い(文意を理解して追従)
監査性・統制高い(遷移がそのまま記録になる)ガードレール設計とログ確認で担保
向く用途手順が固定の定型業務・規制の強い業務問い合わせ対応など発話が多様な一次対応

現実解はハイブリッド — 全部をLLMに委ねる必要はない

実務では「どちらか一方」ではなく、会話の中で方式を使い分ける設計が 現実解になりつつあります。たとえば本人確認や決済に関わる部分は、聞き取る項目と順序を 固定したシナリオ的な制御で確実性を担保し、用件のヒアリングや質問への回答といった 対話部分はLLMに委ねる。自由度が価値になる場面と、確実性が価値になる場面を切り分ける 考え方です。当社のAIRIもこの思想で、会話自体はLLMが進めつつ、応対方針・禁止事項・ 人への転送条件を管理画面から制約として与える構成を取っています。

選び分けの基準 — 3つの問いで判断する

  1. 業務の定型度はどれくらいか — 聞く項目と順序が完全に固定なら シナリオ型の確実性が活きます。問い合わせ内容が多様で「何を聞かれるか分からない」 割合が高いほど、LLM型の適性が上がります。
  2. 想定外の応答をどこまで許容できるか — 一言一句の統制が必要な業務は シナリオ型か、定型部分をシナリオ的に固めたハイブリッドを。一次対応で最終判断を 人が持つ運用なら、LLM型のリスクは実務上コントロールできる範囲に収まります。
  3. チューニングの体制はあるか — シナリオ型は改修のたびにベンダー工数が、 LLM型はナレッジを整備・更新する社内運用が要ります。どちらの手間なら 継続できるかは、意外に本質的な分かれ目です。

なお、どちらの方式でも電話特有の応答速度・聞き取り品質の課題は共通に残ります。 この裏側はAI電話システムの裏側 — レイテンシとの戦いで解説しています。具体的なサービスの選定に進む場合はAI電話対応サービス比較料金プランもあわせてご覧ください。

まとめ

シナリオ型は「予測可能だが発話の多様性に弱い」、LLM自律思考型は「柔軟だが ガードレール設計が要る」——両者は優劣ではなくトレードオフの関係です。 業務の定型度・リスク許容度・運用体制の3点で選び分け、必要なら定型部分だけを シナリオ的に固めるハイブリッドを検討する。これが2026年時点の実務的な結論です。

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